ケイト・マグワイア Kate MccGwire

【ウィンドウ】「INCURSION(侵入)」

2016.1.20(木)~2016.3.15(火)

イベントアート&カルチャー

「自然 ‐ 軽やかなギャロップ」をテーマとする2016年最初のメゾンエルメスのウィンドウ・ディスプレイは、自然の素材から無限の可能性を引き出すイギリスのアーティスト、ケイト・マグワイアが手掛けました。
自然の美しさには二面性が潜んでいます。誘い込まれるような表面の奥深くには決まって暗い底流 ― 原始のエネルギーが息づいています。自然の壮麗さ、創造性、効率性、機能は唯一無二のものですが、マグワイアは自然の素材を用いることで、本物だけが語りかける言葉をあやつり、この世のものとは思えぬ何かをつくり出しています。

_29G5582半ば見捨てられた倉庫のような背景。紳士が余暇に使う馬具の頭絡が丹念に仕上げられています。そんな穏やかな空気を破るかのように、鉄の波板から現れ、古い床板を突き抜ける、不気味なフォルムのうごめき。この彫刻作品の物理的な存在感、曲線、厚み、ボリュームは、どことなく見慣れたもののようにも見えます。その皺や裂け目は、人間の身体性を表していながらも、よく見ると異質で奇妙なものです。羽根が作り出すパターンは水や髪の毛をも連想させつつ、その天然の色と質感は凶々しいエネルギーを放ち、一切手を加えていないありのままの雄鶏の羽根が、見る角度によって色調を変えていきます。

このような天然素材を称える姿勢は、マグワイアの作品の核心といえるでしょう。彼女は素材を集めて整理し、吟味を重ねるプロセスを、最終的な作品の制作と同じくらい大切にします。まず作品をイメージしてスケッチを描くところから作業が始まりますが、ひとたび制作段階に入ると、それぞれ特徴を持った羽根が、何の加工もされていない天然の色と曲線によって、最終的なデザインの本質になっていきます。たとえば『INCURSION(侵入)』に使われている雄鶏の羽根。見る場所や角度を変えるたびに多様な色調が現れ、光の当たり方によって緑、ブロンズ、ピンク、青、黒へと変化します。それは作品に光り輝く美しさを与えると同時に、作品そのものの大きさ、使われている羽根の量が、羽根という見慣れたものを思いも寄らぬ何かに変えているのです。

小窓には、同じく雄鶏の羽根がより小さな形状に沿って使われているのと同時に、キジの羽根による作品も並んでいます。雄のキジはきわめて装飾的な姿をした生物で、一羽の鳥の体表に大きさや模様の異なるさまざまな羽根が生えています。食肉用に養殖されるキジの羽根は、普通は廃棄処分になりますが、マグワイアは一枚一枚の羽根を宝物のように慈しみ、その種類ごとに使い分けてユニークなデザインを際立たせます。その結果、たとえ小さなスケールでも作品が顕著な存在感を放ちます。さらに心惹かれるのが、光を受けて現れる微妙な色の違いです。一見したところ赤、オレンジ、茶色に見える羽根が、実は緑や紫の色調を帯びているのを、道行く人々が発見することでしょう。

マグワイアの作品を前に私たちは立ち止まり、日ごろ見過ごしがちな自然の美と真実に気づかされます。尊敬と畏怖の念をもって接すべき自然がそこにある。その計り知れない力との対話を通じて、自分を再発見することができる。作品は私たちにそう教えてくれます。

Artist Profile: ケイト・マグワイア(Kate MccGwire)
国際的に高く評価されているイギリスの彫刻家。天然素材を利用した作品においては、審美性、知性、直感に関して相反するもの同士の絡み合いが表現され、二面性の中から立ち現れる美を追求している。イギリスのノーフォーク・ブローズで育ったマグワイアは幼いころから自然に親しみ、とりわけ鳥たちに魅了されてきた。鳥類は彼女の作品の素材としてだけでなくテーマとしても繰り返し現れる。2004年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業して以来、その神秘的な彫刻作品は、サーチ・ギャラリー(ロンドン)、ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザイン(ニューヨーク)、狩猟自然博物館(パリ)、最近ではGlasstress 2015の一部門であるヴェネツィア・ビエンナーレに出展されている。(katemccgwire.com