オブジェに宿るもの:この身ひとつで

『ポー川のひかり』

2017.6.3(土)~6.25(日)

アート&カルチャー

ル・ステュディオは銀座メゾンエルメス10階にある40席のプライベートシネマです。
2017年は「オブジェに宿るもの」をテーマにお届けいたします。
6月は、すべてを捨てた男が人生の豊かさを見出す『ポー川のひかり』を上映いたします。


『ポー川のひかり』Cento Chiodi
2006年/イタリア/94分/カラー/DVD

監督・脚本:エルマンノ・オルミ
撮影監督:ファビオ・オルミ
編集:パオロ・コッティニョーラ
録音:フランチェスコ・リオタルド
衣装:マウリツィオ・ミッレノッティ
美術:ジュゼッペ・ピッロッタ
音楽:ファビオ・ヴァッキ
出演:ラズ・デガン、ルーナ・ベンダンディ、アミナ・シエド、ミケーレ・ザッタラ、ダミアーノ・スカイーニ、フランコ・アンドレアーニ

ヨーロッパ最古とされる、イタリアのボローニャ大学。夏季休暇に入ったばかりの図書館で、大量の古文書が太い釘で床に打ち付けられるという衝撃的な事件が起きる。容疑者として浮かび上がったのは、忽然と姿を消した若き気鋭の哲学教授。将来を嘱望されていたこの若い男は、車も財布もすべてを投げ捨てて、辿り着いたポー川のほとりの廃屋で新しい生活を始める。時代に絶望した男だったが、素朴な村人たちとの交流を通して、生の息吹を蘇らせ、真実を見出してゆく……。名匠エルマンノ・オルミ監督が当時、最後の長編劇映画と位置づけた本作は、光と寓意あふれる映像美と、誠実な人生の結実を感じさせる、渾身の一作である。


『ポー川のひかり』
アレキサンドル・ティケニス(ル・ステュディオ プログラム・ディレクター)

映画は、奇妙な犯罪の場面から始まる。時代を感じさせる板張りの大学図書館。天井は教会のように高く、床には百冊の宗教書が釘を打たれて散らばっている。磔にされた書物。アートのように周到に用意された犯罪。その釘は古書を物理的に貫くだけでなく、聖なる書物を象徴的に突き殺すのだ。
誰がこれほどの冒瀆をあえて行ったのか。過激な無神論者だろうか。犯人は、宗教哲学を専門とする大学教授だった。この大学教授にとって、書物は、たとえそれが聖書であっても、偽りの知識を語り、人間から自由意志を奪いさるものだった。未来を嘱望される若き哲学者は、それまでの生活と財産のほぼすべてを投げ捨て、大学から姿をくらました。真実を見いだすために、自然に囲まれた質素な暮らしを求めたのだ。
エルマンノ・オルミ監督は、大学教授の反抗をつうじて、宗教に対する自らの懐疑を表現する。宗教的な義務やタブー、あるいは宗教そのものに対して、彼自身が疑念を抱いているのだ。オルミはカトリックの農家に生まれ、自らも敬虔なクリスチャンだが、「教会が人間よりも教理を重んじるかぎり、わたしは教会のあらゆる形態に反対します。わたしは人間の自由を擁護します」と断言する。
オルミはこの作品で、根源的な価値を探しもとめる人間の姿を寓話的に描きだす。謎めいた大学教授(名前はついに明かされない)は、そのカリスマ的な魅力と風貌によって、親しくなった村人たちから「キリストさん」と呼ばれるようになる。清貧を尊び、貧しい者を助けるといった福音書の教えを暗示する物語が、キリスト教的な寓話性をさらに強める。
オルミが手がけた多くの作品同様、ここでも、人間は自然との深い結びつきのなかで生きている。晩年のオルミにとって、自然は不可避のテーマだった。1990年にポー川のドキュメンタリーを撮ったオルミは、本作でも最後の場面にいたるまで、その穏やかな水面と岸辺をカメラに収める。日の光を浴びて微睡むように流れるときも、白い夜霧に覆われるときも、ポー川は、慈愛に満ちた神のように人々に恵みをもたらす。

上映スケジュール


上映日:6月3日(土)、6月4日(日)、6月10日(土)、6月11日(日)、6月17日(土)、6月18日(日)、6月24日(土)、6月25日(日)

上映時間


11:00/14:00/17:00

会場


銀座メゾンエルメス ル・ステュディオ(東京都中央区銀座5‐4‐1 10階 TEL: 03-3569-3300)

予約


予約開始:5月13日(土)11:00
予約方法:5月13日以降、「予約」ボタンよりご予約ください。

※上映会は、中学生以上の方にご参加いただけます。
※ご予約は、鑑賞ご希望の上映日の3週間前の11:00からとなります。
※満席の場合にはご予約頂けませんが、当日キャンセルのあった場合は、会場にて先着順でご鑑賞いただけます。(上映時間5分前に会場に直接お越しください。)